超人ザオタル(13)心の道
この感覚を私は覚えていた。
だが、そこに何もないことも知っていた。
この瞑想にあっても、何ひとつ得るものがない。
ただここで静かな時間を過ごすだけだ。
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それは決して悪い感じではない。
だから私は瞑想を続けてきたのだ。
ただ、それだけであれば、その意味を失っていく。
それで私は瞑想から離れていった。
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いまも同じあの静寂の中に立っている。
これ以上の何を瞑想に求めるというのだろうか。
無の境地に沈んで、私はそこで自分を失う。
そして瞑想から覚めれば、また目の前に見えぬ道があるのだ。
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私は瞑想の静けさの中にで心地よく漂っていた。
そこで道を歩くことの苦しさを忘れていった。
私は誰なのか。
その疑問が水の中の気泡のように現れて弾けた。
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私はいったい何をしているのだ。
道を歩くのは何かを探すためだ。
何を探そうとしているのか。
それさえ分からずに道を歩いている。
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それでは何も見つからないだろう。
この世界では無数の経験をしてきた。
だが、それは探していたものではない。
なぜなら、その後も道は続いていたからだ。
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どういうことなのか。
私は瞑想から出て、ゆっくりと目を開けた。
草原の風景が目に飛び込んでくる。
いつ見ても美しい景色だ。
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「すでにあの道は終わっているのですよ、ザオタル」
いつの間にか隣りに座っていたミスラが言った。
「ここが終着点です」
静かな風がわたしたちを撫でていった。
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私は黙っていた。
ミスラの言葉を自分の中で理解しようとしていた。
うつむいて地面を見つめた。
それなら、なぜ私は歩いているのだ。
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「私はどうすればいいのだ、ミスラ」
私はうつむいたまま力なくそう尋ねた。
「新しい道を見つけて、そこを行かなければなりません」
ミスラの声は風のささやきのようだった。
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「それは道の分岐を見つけるということではないのだな」
「そうです。心の中の道を見つけなければなりません、ザオタル」
「なぜそれを早く私に言ってくれないのだ、ミスラ」
「それはあなたがその時を迎えなければならなかったからです」
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私は目を閉じた。
瞑想の扉を開けて、心の奥に降り立った。
ここに道などあるのか。
暗闇ばかりで何もない。
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いままではいつまでも続く道にうんざりしていた。
今度は見えないその道を見つけなければならない。
そして道などどこにも見当たらないのだ。
私はそこで途方に暮れた。
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瞑想からでて、ゆっくりと目を開けた。
何も変わらずに美しい草原がそこにあった。
「道などどこにもないぞ、ミスラ」
私は自分に苛立っていた。
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「そこに道はありますよ、ザオタル」
ミスラの声には私をなだめるような優しさがあった。
「あなたはその道を見つけなければならないのです。
それがあなたの義務なのです」
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