超人ザオタル(17)岩山の対話
気づいて目を開けると岩山の上に座っていた。
小高い岩山の上から見渡す草原は美しかった。
気配を感じて隣を見ると壮年の男が並んで座っている。
どこかで見たことがある気がする。
「ようやくここまできたか、ザオタル。
待ちくたびれたぞ」
男はそう言って冗談ぽく笑った。
私の名前を知っている、知り合いなのだろうか。
「どこかでお会いしたでしょうか」
私は草原の美しい景色にめまいを覚えながらそう尋ねた。
「私はアムシャだよ。
何度か会っているはずだが」
そう言って男は微笑んだ。
道を歩いている時に見かけた瞑想者かもしれない。
そんな気がした。
だが、この岩山には誰もいなかったはず。
「ここは瞑想の中だ、ザオタル」
そうだった。
私は瞑想をしていたのだ。
そして強い力で心の奥に落ちていったのを思い出した。
「そこがここというわけだ」
アムシャは確かめるようにそう言った。
それにしても同じ景色。
「その方が居心地がいいだろう」
アムシャは私の心が読めるようだ。
ここは私の心の中なのだ。
「あなたは誰なのでしょうか」
「私は誰ということもないよ、ザオタル」
「誰ということもないとして、
なぜ私はあなたに会っているのでしょう、アムシャ」
「それは時が来たからだろう。
そうでなければ、私は現れないのだ」
「私は長年道を歩んできました。
それはなぜなのでしょう、アムシャ」
私はアムシャに質問を投げかけてみた。
それでこの男が誰なのか分かる気がしたのだ。
「自分が誰なのか知るためだよ。
それは知っているだろう、ザオタル」
アムシャは当然のようにそう答えた。
この男を試そうとすることは無駄でしかないと悟った。
「私は自分が誰なのか分かった気がしましたが、
急にその確信が揺らいでしまいました。
あれほど確かだと思っていたことが、
何もないような虚しさに変わってしまったのです」
「まあ、それはよくあることだよ、ザオタル。
いまそこに自分がいることが不確かだと感じるか、
それを確かめ続けることだ。
そして世界の概念でその自分を推し量らないことだ。
それは世界を超えているのだ。
それに世界の概念など当てはまらない。
そんな小さな概念など捨て去ってそれを見ることだ。
そうすれば、何が現実なのか分かる」
アムシャの言葉は明確だったが、意味は分からなかった。
世界を超えているとはどういうことなのだ。
私には世界という概念しかない。
それを超えて何かを推し量ることは不可能だ。
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