超人ザオタル(21)突然の落下
あの意識の表面に引き上げられる感覚があった。
私は瞑想から出て、ゆっくりと目を開けた。
ひとつ大きな息を吸って、そして吐いた。
視界が定まらず草原の風景がまだぼやけて見える。
私はそこで立ち上がった。
いつもの場所で慣れている気の緩みがあった。
一瞬ふらつくと、私のつま先が岩に引っ掛かった。
倒れる身体を支えようとして、足元の岩に手を伸ばした。
だが、その手は虚しく岩肌を撫でただけだった。
私はそのまま岩山から落ちていった。
身体をかばう間もなく、地面に叩きつけられた。
しばらく身動きができず息さえもできなかった。
何も感じないが、どこか怪我をしただろうか。
目を閉じたまま、身体の痛みを探ってみる。
じんわりと痛みが表面に浮かび上がってきた。
頭から鐘を打ったような痛みが響く。
背中と足首からもかなり痛みを感じる。
立ち上がれるのか。
私はうめきながら、ゆっくりと上半身を起こしてみた。
頭が血で生ぬるく濡れている感じがする。
助けてもらうにもミスラはもういない。
アムシャも瞑想の中でしか会えない。
この草原で出会ったのは、イサトしかいない。
だが、いまではあの大樹がどこにあるのかさえ分からない。
私は強いめまいを感じて、また地面に突っ伏してしまった。
波のように襲ってくる痛みに耐えながら、目を閉じ歯を食いしばる。
日が落ちて、大地はぬくもりを失い私の身体も冷えていった。
このまま死んでしまうのか。
冷えていく身体を感じながら、ここまでかと覚悟した。
痛みの波も薄れてきて、どこか遠くのことに感じてきた。
感覚が次第に失われていくのが分かった。
そして私はそのまま気を失った。
肌に暖かさを感じて私は目を覚ました。
すぐに身体のあちこちが痛みでうずき出した。
頭に触れてみると布がしっかりと巻かれている。
血止めもしてあるようだ。
チラチラと赤い炎がぼやけて見えた。
何が起こっているのか確かめようと上半身を起こそうとした。
だが、私はひとつうめき声を上げただけで動くことはできなかった。
「そのままでいてください」
落ち着いた感じの若い女の声がした。
「私は…」
そうだけ言って言葉が出なくなった。
まだ頭もはっきりとしていない。
「岩山を通りかかったとき倒れているあなたを見つけたのです。
ひどい怪我をしていたので、応急の手当だけはしておきました。
朝になったら、また怪我の様子を見てみます。
火を焚いていますから、そのまま横になっていてください。
…、私はパルティアのアルマティといいます」
私の目はまだぼやけていて見えなかったが、声ははっきりと聞こえた。
「ありがとう、アルマティ。
私はザオタルという旅の者だ」
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