超人ザオタル(24)平安の日々
それから数日して、私の身体はかなり回復した。
温かい風呂に入り、身体も清潔になった。
いままでの粗末なものに比べれば食事は申し分ない。
心地いいベッドで眠り、その日の天気を心配することなく目覚める。
道を旅していたときには想像もできない快適な日々だ。
私はずっとこれでいいのではないかとさえ思った。
人間的な暮らしがここにある。
家の周りを散歩することもできるようになった。
あの草原の風景も違って見えた。
もうそこを歩かなくてもいいのだ。
瞑想さえしていない。
私は何のために瞑想をしていたのかさえ忘れた。
いや、私はそれを思い出そうともしなかったのだ。
思い出せば、この暮らしに別れを告げなければならない。
私ははじめて人間になった気がしていた。
そして人間であることに歓びを見出していたのだ。
この身体が健康であることの歓び。
この心が平穏であることの幸福。
過酷な旅に自分を晒すこともない。
守られている安心感がそこにはある。
アルマティとタロマティの手厚い世話がありがたかった。
見も知らぬ私をここまでもてなしてくれる。
だが、私は何の恩返しもできないだろう。
ここで私にいったい何ができるのだ。
私はただ旅をしてきただけだ。
パンを焼くこともスープをつくることもできない。
眉間にしわを寄せて、野にある葉や根をかじって生きてきたのだ。
私がいかに自分が粗野であったか思い知らされた。
いつかは私はここを離れなければならない。
いつまでもふたりに世話になっているわけにはいかないのだ。
だが、ここで人間らしい暮らしを始めるのも悪くない。
そんな想いがまったくないわけではない。
私は自分という人間が分からなくなってきた。
ミスラといるときには、旅をすること自体に疑問はなかった。
ただ、その終着地が見つからずにいただけだ。
もしかすると、ここが本当の終着地なのかもしれない。
そんなわけがないことは知っていた。
私はまだ旅が終わったとは感じていなかった。
これはその途中であることは明らかなのだ。
ただ、私の道へのあの熱意は砂漠の砂のように乾いてしまった。
それを呼び起こさなくてはならなかった。
だが、私はそれを怠っていたのだ。
怠っていることも知っていた。
それでも、私はそれを放置し続けた。
もはや、またあの過酷さに身を置くことに抵抗があった。
それにはもう少し準備する必要がある。
そう自分に言って納得させていた。
そうして時が無為に過ぎていくことさえ、気にならなくなっていた。
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