超人ザオタル(61)やるべきこと
私はあの道へと一歩を踏み出した。
個人ではなく存在の私として元の世界に戻る。
まずはあの出発の地であるミスラと出会った町を目指すことにした。
直感を通して浮かんできた光景がそれだった。
そこで何をするのかは分からない。
特に何かの計画があるわけでもないのだ。
それでもそこに着けば、何かが起こるだろう。
もちろん何も起こらないかもしれない。
そんなことを期待しているわけではない。
むしろ気持ちとしては世界を信頼していた。
それは私が保護され優遇されることを期待しているのではない。
何が起こるにしても、それが世界に必要だということなのだ。
世界が必要だとするなら、それが何であれ受け入れるしかない。
何しろ世界は私であって、その責任を負っている。
そこでできることは世界の潮流を信じることだけだ。
もしかするとザオタル個人はそこでとんでもない間違いを犯すかもしれない。
それには何らかの理由があるかもしれないが、それもまたひとつの潮流だ。
この世界の潮流に古くから多くの導師たちが巻き込まれてきた。
そして世界から冷たい仕打ちを受け、嘲られ無視されてもきたのだ。
世界は存在に目覚めた者にとって居心地がいい場所とは限らない。
それでも世界の潮流は、それに目覚めたものを逃さない。
何度でもこの未成熟な世界の混沌に放り込んでくる。
それは激しい山火事にわずかな水をかけて消そうとすることにも似ている。
そんなことで山火事が消えるわけがない。
かなり無茶なことだが、そうして世界は新しい血を身体に入れているのだ。
無意味に見えることでも積み重ねていけば意味を持ってくる。
世界はそうして長い時間をかけて精神の成熟を促している。
そして私は世界でもあるため、そうしなければならない責任がある。
たとえそれが火の中で瞬時に蒸発する小さな水滴だとしても。
最初、真実はその水滴のようにすぐに忘れ去られてしまうだろう。
だが、それが世界に残り、大地を覆い尽くす流れとなるまで絶え間なく続けられるのだ。
そこに気の遠くなるような底しれぬ暗黒の絶望を感じたとしても。
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