超人ザオタル(107)目覚めの波
シュマは気持ちを切り替えるように顔を上げて言った。
「私は厳しさが足りなかったかもしれません。
どこかで自我と妥協していようとしていました。
不完全でも、自分が納得できればいいではないかと。
しかし、そんなスキがあれば、
その妥協は隠さなければならない偽りになる。
それは薄々分かっていました。
真の自分を知ることは妥協を許さない。
これはどんな過酷な修行よりも厳しいかもしれません。
自我の希望を通すのではなく、
真の自分をありのままに受け入れるのですね。
、、、もう一度出直してきます、ザオタルさま」
私は微笑みながら黙って頷いた。
シュマは立ち上がると一礼して去っていった。
ここで停滞は終わり、先へと進み始めるのを感じた。
ただ、この道の過酷さはこれからなのだ。
自我は強く自分を主張してくるだろう。
真の自分を悟ったとしても、
そこに何の恩恵もなく、誰からも評価されないのだ。
それを自我は無価値であると判断する。
それでもこの道を歩んでいけるか。
ただ自分の真実を知りたいというその熱意だけで。
これが過酷さの核心なのだ。
しかし、シュマには真の自分に目覚めるという波が来ている。
それだけが救いであり、
この道を信じていくことを支えている。
いつの間にか白いもやは晴れて、目の前に美しい丘陵の景色が広がっていた。
朝露に湿っていた岩も乾いて、陽の暖かさを享受していた。
それから半月ほどが経った。
私はいつもの場所でぼんやりと景色を眺めていた。
まだお昼前だというのに日差しが強く、
じっとしていても汗ばむ陽気だった。
それでも、時折吹く風が涼しさを運んできて、
それが暑さを和らげ、心地良くしてくれる。
私はそうして世界を感じていた。
心地よさを求めているわけではない。
それが世界なら心地悪い感じでも構わない。
土砂降りの雨、冷たく乾いた風、湿って暑い空気。
それらが身体を不快にしたとしても、
それはそれで世界であり、ありのまま受け入れるだろう。
身体や心はそれで不満を言うかもしれないが、
そう不満を言う身体や心も世界の一環なのだ。
そこにいる私はだたそれを黙って感じている。
私が存在するから、この世界はそうして自由に生きている。
実に微笑ましいことだ。
私にとって世界はすでに役割を終えている。
ただこの世界を去るまでの時間を静かに過ごしている。
そしてあの波をこの世界に残そうとしている。
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