超人ザオタル(16)道に迷う
「困ったことになった、ミスラ」
傍らを歩くミスラにそう話しかけた。
「私は自分が分かったつもりでいたが、分からなくなった」
そう言いながら悲しみが募って涙が出そうになった。
「それでいいのです、ザオタル。
それが正しい道です」
ミスラの言葉は意味不明だった。
これが正しい道なのだろうか。
こうして歩いている私は現実で確かだった。
陽の光、草原の匂い、足裏の土の感触。
風の暖かさ、空の青さ、水の冷たさ。
それを感じている自分。
この草原にいる自分の幸せを感じている。
もちろん冷たい雨の日も砂が舞う嵐もある。
そんなときは歩くことも、ここにいることもつらいものだ。
それでもそれは幸せとのコントラストになっている。
どんな困難もそれで幸福の存在を浮き彫りにするのだ。
その幸福こそがここにいる理由なのだと思う。
幸福な私がなるべき自分ではないのか。
つまり、歩くことが自分なのだ。
私はまた真実に近づいた気がした。
「それは道をそれていますよ、ザオタル」
そうミスラが悲しげな低い声で言った。
そうだ、私もそれが自分だとは思っていない。
ただ、何とかして自分を姿かたちあるものにしたかっただけだ。
ミスラに言われるまでもない。
問題は瞑想の自分が本当の自分かどうかということだ。
それを納得いくまで確かめなければならない。
それは分かっていたが、私はやりたくなかったのだ。
もっと簡単に答えを出したかった。
それは私がこの長い旅に疲れていたからかもしれない。
答えが見つからない苛立ちがそうさせたのか。
私は黙ってあの影を見つめた。
その影はこころなしか大きくなったような気がした。
近づいているのか。
なんとなくそんな手応えを感じた。
その影が大きくなったのは気のせいではなかった。
日々、それは大きくなり、近づいていることは確実だった。
それが三角の山の形をしているのが分かった。
それは多くの岩が積み上げられた山のようだった。
ついにわたしたちはあの影にたどり着いた。
家ほどの大きさの尖った山が目の前にある。
これがあの影の正体なのか。
私たちはしばらくその岩山を見上げていた。
「着いてしまえば何てことはないな、ミスラ」
私はなかば残念そうにそう言った。
「そうですね、ザオタル」
ミスラはあまり感情を見せなかった。
ふと私は瞑想しようと地面に座り目を閉じた。
そのとたん、とても力強い何かを感じた。
これはいつもの瞑想ではない。
その力に引き込まれるまま、真っ暗な意識の奥に落ちていった。
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