超人ザオタル(28)心の叫び
私はその心の深みでじっとしていた。
そこでその感覚に意識を向けてを静かに確かめた。
感覚は何もしていないが、全神経が覚醒していた。
そこにいるということだけを見つめ続けた。
私は誰なのか。
そんな言葉を思い出した。
そして、ここにいる自分を意識した。
確かにここにいる。
ここは草原の家の中ではない。
そんな場所に限定されていない自分がそこにいる。
それはとても懐かしい感じがした。
それは新しい感覚のようだったが、すでに知っているものだ。
私はいつでもここに戻って来る。
あちこちと旅しては、世界の新しい景色に目を染める。
だが、そこがどんな場所であろうと、いつでもここにいるのだ。
それが私、本当の自分なのだ。
この本当の自分は変わることがない。
戻れば、そこは必ずこの場所だ。
そこはひとつしかない。
ひとつしかないから、私は安心できる。
まるで昔から知っている町に舞い戻ったようだ。
世界が苦痛と絶望の暗闇にあっても、ここだけは晴れ渡った空なのだ。
歓喜と幸福の光に包まれていても、そこは深く静かな空が広がっているだけ。
何も変わらないという奇跡がここで絶え間なく起こっている。
私は静かな心の奥底で、ただそんな想いを受け取っていた。
だが、そこで静寂に抗うように小さな竜巻が起こった。
それは、そんな自分に何の価値があるのだと小声で言う。
そんな自分はあまりに貧しく、弱く、諦めと怠惰に染まっているではないか。
歩き続け、求め続けるのだ。
そうすれば世界はそれに応えるだろう。
世界を手にして、それを自分とするのだ。
それが本当の自分になること。
それは豊かで、力強く、希望と向上心とであふれている。
それが自分であるべきではないのか。
なぜ本当の自分という劣ったものを自分としなければならないのだ。
世界を歩き続けて、そんな貧弱なものを手にして満足なのか。
それで道を説くことができるのか。
道は歩くためにある。
そこで止まったら、そこまでだ。
その身体が力尽きるまで歩き続けるのだ。
それが自分として生きた誇りになる。
そうして世界を支配し、それを自分に染めていくのだ。
そんな誇り高く、崇高な自分にすべてがひれ伏すだろう。
だが、そんなことにも見向きもせず、ひとり歩いていく気概も持ち合わせている。
それだけ言葉を残すと竜巻は小さくなって消えた。
それは私の心に残っている疑いの叫びのようだった。
つまり、私はまだそこにいる自分を信じていなかったのだ。
竜巻の言葉に感動し、同意さえしていた。
私はまだ道を説くことは出来ないと思った。
竜巻の言葉は私の静かな心をチクリと刺していった。
だが、それはすでに知っていることだ。
そして、道はそこではないと気づいてもいるのだ。
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