超人ザオタル(33)道の喪失
「それでは、まだ私は準備が出来ていないだけということでしょうか、ザオタル。
そして、私もいつか道を行く日が来るということでしょうか」
タロマティの言葉にはまだ懐疑的な響きがあった。
だが、小さな興味が見え隠れしていた。
「そうだよ、タロマティ。
もうあなたはこの草原にいるのだ。
ここまでの道を歩んできたのだ。
だが、ここで道を失ってしまった。
そうではないのかな。
それでここでの暮らしに道を見つけようとしたのだ。
それはとても満たされていたため、それが終着地だと思った。
だが、本当はここが終着地だとは思っていないのだ。
それがあなたの心に引っかかっている。
そして答えが出ないことに苛立っている。
今の暮らしが終着地だと証明できないことに焦っている。
道を失い、道を見つけられないでいるのだ」
「確かにその通りかもしれません、ザオタル。
私はここを終着地にしたかった。
この幸せが終着地であれと願ったのです。
でもその証は現れませんでした。
そしてどこにも他に道はありませんでした。
私たちふたりも長い間、この草原をさまよったのです。
そこで倒れて、ここの村人に助けられました。
恩返しにと働いているうちに、ここでの暮らしが始まってしまいました。
そして道のことなど忘れようとしてきました。
それでもその道を行く人があなたのように時折現れるのです。
その時、私の道への思いがあらわになります。
そうすると忘れかけていた古い傷がうずくのです。
私が道を見失ってしまったとい事実。
そのことが私を苦しめます」
タロマティは薄っすらと目に涙をためていた。
私たちは黙って、静かな時に身を委ねた。
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