超人ザオタル(32)道への疑念
「まだ私を納得させるだけのことは何も話してませんよ、ザオタル」
タロマティはそう言って腕を組んだ。
アルマティは目を輝かせて私の話を聞いていた。
アルマティには砂に水が染み込むように私の話が受け取られている。
アルマティとのつながりは心地いいものだった。
タロマティはまだ私の話に懐疑的だった。
だが、それも私にとっては嬉しいことだ。
なぜなら、タロマティの態度は私の態度の一部だからだ。
私はそれを無視すこことが出来ない。
いや、それを無視してはいけないのだ。
タロマティの言葉は私を納得させた。
それが私の心にもある当然の疑問だからだ。
なんという美しい時間なのだろうか。
私の感覚は草原の地平線にまで広がり、空をも包み込んでいる。
すべてとのつながりがあり、感覚の共有がある。
この時間もまた道なのだ。
「それを納得するためには、私の言葉だけでは役不足だよ、タロマティ。
それは自分で瞑想して感じ取らなければならない。
そうでなければ、どれだけ言葉を尽くしても虚しく響くだけだ。
だが、それを知れば、すべての言葉は自らの美しい調べとなる」
「それはそうなのでしょうけど。
何か釈然としないのです。
私はその道に何の価値も意味も感じられないのです。
だから、その道を行く人に何も共感できないのです。
それよりも、なぜ人間としての暮らしを疎かにしているのか理解できません。
そこまでして道を行く必要があるのでしょうか。
幻のようなそれに心を傾けて、苦しむ必要があるのでしょうか。
私たちは道を行く人を助ける義務があります。
道を行く人の尊厳を守らなければなりません。
それが草原の民に与えられた使命でもあるからです。
でも、私は理解できないのです」
タロマティは困惑した顔をして私を見た。
「それはよく分かるよ、タロマティ。
私もかつては道を放棄した人間なのだ。
そうして静かな森の中の小屋で暮らしていた。
だが、どうしてもそこを歩まねばならなくなった。
これは私の本意ではないのだ。
それは私が道を歩む準備ができているということであり、
つまりそこに道を歩む義務があるということなのだ。
そして、私はその義務から逃れることが出来ない。
その道を歩み、その道を理解し、そして終着地へと赴く。
それはタロマティがこの草原で暮らしを大切にしていることと同じなのだ。
ただ、いま大切にしているものが草原なのか道なのかだけの話だ。
だから、そこで相互に理解するなどということは起こらないだろう。
それでも、誰にとっても終着地は同じなのだ。
道を歩む準備ができれば、そこから道を歩むことが始まるだろう。
それまでは大切だと思うことを大切にすればいい。
それだけの話なのだ」
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