超人ザオタル(36)瞑想の道
道というものは、決して細くて心もとないものではない。
もちろん、終着地への道は簡単ではない。
だが、大きな枠で見れば、どれだけ道から逸れたと思っていても、
私はいつでもその道を歩んでいるのだ。
むしろ、その道から外れることの方が難しい。
この世界で過ぎゆく時間の中にいる限り、私は道を歩んでいる。
それが瞑想をせずに、世界の心地よさに寄りかかっていたとしても。
どんなときでも私は道の上にいる。
ただ、終着地というものが私を惑わせる。
ようやくそこが終着地だと知っても終わりではないのだ。
なぜそこが終着地なのか知らなければならない。
その知識は言葉ではないので、感じ取らなければならない。
この道を行く多くの人がいて、心の中にこの終着地を見つける人もいるだろう。
だが、そのほとんどの人がそこを離れていく。
その場所の意味を理解できないのだ。
いや、何を理解すればいいのかさえ分からない。
私はそこで何を理解すればいいのかを知らなければならなかった。
そのためには、瞑想でじっとそこに佇んでいなければならない。
美しい蝶が誘いに来れば、私はまんまと想像の世界に連れ込まれてしまう。
そうしても罪悪感がないほど、そこでは何もすることがない。
だが、私はまだ何かを見落としているのだ。
それを知るための方法はひたすらそこにいること。
そのために何かの苦難を受けるのならまだ分かりやすい。
何もせずにいることが、打開するための唯一の方法ということに違和感がある。
今までの世界とはかなり取り組みの勝手が違うのだ。
アムシャは私の知ることができる範囲でしか言葉にしないだろう。
だから、私の理解もそこにいることで、わずかに重ねていかなければならない。
そんな気の遠くなるようなことでしか、きっとそこでの理解は得られないのだ
晩になって、アルマティとタロマティが部屋を訪ねてきた。
私はふたりを快く迎え入れた。
「さて、今日はどんな話をしようか」
私がそう言うとふたりは顔を見合わせた。
口を開いたのはアルマティだった。
「実は私たちに瞑想を教えてほしいのです、ザオタル。
あなたの話を聞いて、私たちの道は瞑想にしかないと気づきました。
この草原で体験は大切ですが、私たちも道を忘れられないのです。
瞑想であれば、ここで生活しなが道を行くことが出来ます。
それが私たちの求める道であるなら、どこか遠くに行く必要もありません。
ただ、私たちは瞑想の道をよく分かっていません。
何をどうすればいいのかさえ知らないのです。
そこであたなに瞑想を教えていただいて、
最初に願った最終の地へと向かいたいのです。
これは無理なお願いでしょうか、ザオタル。
不躾なことだとは分かっています。
でも、今頼れるのはあなたしかいないのです」
私は話を聞いて困惑した。
瞑想の道を教えることなどできるのだろうか。
私でさえ、まだそこは定かではないのだ。
「ふたりの願いは分かったよ、アルマティ。
だが、私はまだ瞑想での最終地点をよく理解していないのだ。
つまり私もまたそこで道を歩む者だ。
だから、道を間違うこともあるかもしれない。
それでもいいなら、もちろん喜んで瞑想を教えるよ」
ふたりの顔がぱっと明るくなった。
「ええ、それで構いません、ザオタル。
私たちに瞑想の道を教えて下さい。
もちろん、あなたの知っているところまでで結構です。
この草原でさまよったことを思えば、そんな間違いなどたいしたことではありません。
私たちがそれを乗り越えていけばいいだけです。
その覚悟はあります」
アルマティはそう言うと、タロマティと嬉しそうに見つめ合った。
「わかったよ、アルティマ、タロティマ。
では、瞑想について教えていこう。
まず目閉じて、身体の力を抜くのだ」
ふたりは姿勢を正すと、私の言う通りにした。
「瞑想自体はそれほど難しいことではない。
妙に考えすぎないことだ。
そのまま心の中で意識に集中すると、身体の感覚が消えていく。
そうすると、そこにある認識だけになる。
その認識に焦点を合わせ続けるのだ。
それは決して消えることはない灯火のようなものだ。
そこにいて完全に停止している。
そこが私の知っている最終地点だ。
だが、そこが最終地点だという証を立てなければならない。
この証を立てていくことが瞑想の道だ。
もうどこかに歩いていくことが道ではなくなっている。
ともかく、そこはこちらの世界とは随分と勝手が違っている。
完全に停止することが、道を歩くことになるのだから。
瞑想ではそういうことに慣れていかなければならない。
そこで証としての理解が訪れるのを待つのだ」
0コメント