超人ザオタル(106)自我と世界
しかし、そこには確かにもうひとりいるです。
それがシュマ殿の感じ取った存在です。
それでは、それは自我なのでしょうか。
自我であれば名前があるはずです。
真の自分に名前はあるでしょうか。
その名前に見合う特徴があるでしょうか。
それを確かめてみることです。
真の自分には姿形がありませんから、
特徴といわれても、何も見つけられないでしょう。
そうであれば、それは自我ではないということです。
真の自分は自我ではありません。
それでは自我はどこに行ったのでしょうか。
自我は確かにここに存在しています。
こことはどこでしょうか。
それは世界です。
自我は世界に戻されたのです。
いや、もともと自我は世界のもの。
世界の一部でありながら『自分』と名乗ったのです。
それで、それは自我となり、自分本体に成りすましました。
真の自分を知ったのなら、自我はそこに居場所を失って、
もともとの居場所である世界へと戻されます。
それでこうして我々もここにいるのです。
真の自分からすれば自我は存在しません。
それは世界と見なされます。
真の自分は主体なので姿形はありません。
それ以外は対象として認識することができます。
自分の身体も心の声も記憶も対象になります。
よって、それらは自分ではなく、世界なのです」
シュマは私の話をうなずきながら聞いていた。
私がそこで話を区切ると、確かめるように目を閉じた。
沈黙の時間が流れた。
「確かに、」
シュマは目を開けると、そう言って話し始めた。
「確かに、それは自分なのですが、自我の特徴がありません。
ということは自我ではないということですか。
それでも自分が自我ではないということに違和感は残ります。
いまここでも自分が自我であることが当然に思えます。
それを違うのだということは無理がある気がします。
真の自分と自我はどちらも自分だということでは駄目なのでしょうか」
シュマは明らかに困惑した顔でそう尋ねた。
「自分というのはひとりだけです。
『私』といえる存在はひとりしかいません。
瞑想で確かめてみても、ひとりしか見つからないでしょう。
その自分は真の自分か、それとも自我なのか、どちらかになります」
シュマは違う答えを期待していたのかもしれない。
落胆した顔をして、目を伏せた。私は続けた。
「真の自分を見つけただけで、すべてを理解することはできません。
それはそれで探究の確かな一歩ですが、
その先にはまだまだ道があるのです。
瞑想の中で丹念に確認を重ねていく。
自我が真実を知り、それを受け入れることが大事なのです。
それが悟っていくということです」
0コメント